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テクノロジーと暮らし
2017-08-29

身体、家計、地球に優しい住まい
パッシブデザインのすすめ

暑い夏でも、寒い冬でも、冷房や暖房になるべく頼らなくても快適に過ごせる家は、身体にも家計にも地球環境にも優しい住まいです。それを太陽光や地熱、風など自然の力を生かした設計により実現する「パッシブデザイン」が、建築業界では注目されています。

住む人が住まいに任せて快適を味わう家

「パッシブ」とは、受動的な、受身な、消極的なという意味です。ちなみに反対語は「アクティブ」になり、「活動的」や「積極的」を意味します。では、「受身のデザイン」という意味になるパッシブデサインとは、どのようなものなのでしょうか。

例えば夏の暑い日にエアコンのスイッチを押し、温度調節をして涼しい部屋にする……という行為は、自分で設備を操作し、積極的に快適な空間にしているという点で「アクティブ」といえます。
これに対し、暑い日でもとくに何もせず、家が勝手に快適な空間を提供してくれている(整えてくれる)とすれば、それを受身、つまり「パッシブ」と捉えることができます。つまりパッシブデザインとは、その空間で過ごす人が、機会的な手法に頼らず家に任せて(受身で)快適さを味わう(家自体が自然エネルギーをコントロールしてくれる)ことができる住まいの設計ということができます。

パッシブデザインは、建築技術としては新しいものではありません。とくに日本家屋では、深い軒、縁側、障子、すだれなど、自然の力を利用して涼しさを演出する手法は昔から取り入れられてきました。そこに太陽光発電や風力発電、高気密・高断熱などの技術を組み合わせて、より効率的な快適性を実現するのが、現代のパッシブデザインの特徴といえます。

パッシブデザインを実現する工法

パッシブデザインでは、自然界に存在するさまざまなエネルギーを活用して、快適な空間をつくり出します。そのためには季節ごとの日照時間、日射の角度、風の流れなどをシミュレーションして、それを最大限に生かすための技術が必要になります。ここでは、その代表的な手法を紹介しましょう。

1 太陽熱の取り込み、蓄熱
太陽からの熱を開口部から受け、それを室内に蓄熱することで、夜まで暖かな状態を保つ技術です。例えば、南側に太陽が長時間滞在する冬では、多くの日射は南側から受けることになります。そこで南側の部屋につながる廊下をタイル貼りにして、昼間の温かい日差しを蓄熱。夜に熱が徐々に室内に放出される仕組みをつくるなどがこれに当たります。

2 太陽光の利用
明るい太陽からの光を、照明として利用する方法です。例えば吹き抜けをつくり、2階から降り注ぐ光が家全体を明るくするような空間設計がこれに当たります。

3 通風のデザイン
家のどの方向から風が吹いてきても、それを室内に取り込んで流すようにする窓の配置や、換気システムなどの技術です。おもに蒸し暑い夏の夜や、春・秋などの中間期に外気を取り入れ快適に過ごすために活用します。

4 日射の遮へい
真夏の暑い太陽光を遮り、室内の涼しさを保つための技術です。日照のシミュレーションを行い、どの時間帯に家のどこに日光が当たるのかを想定して、軒やブラインド、外構、植栽などをデザインしていきます。

5 断熱
冬の時期は温めた、夏の時期は冷やした空気を、室内で長くキープするために必要な技術です。高機能の断熱剤や複層ガラスなどの建材、さまざまな断熱工法を駆使して、温度変化の少ない室内空間をつくります。

このようにパッシブデザインは、健康にも、家計の削減にも、二酸化炭素削減による地球環境維持にも役立つ住まいのデザインとして、大変メリットの多い住宅工法です。もちろん土地の状態や地域の気候の問題で、すべてが万能に機能するものではありませんし、制限も存在しますが、新しい住まいを注文建築でと考えているのであれば、検討してみる価値はあるかもしれません。

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