
![]() 「ハウスメーカーの住宅を選んでしまう施主の方は、『家とはこういうものだ』という既成概念に凝り固まってしまっているのではないかという気がします。一生で一番高い買い物ですから、安易に既製品で済ませて欲しくないという思いはありますね」 そうしたこだわりを持つ後藤さんたちは、まず施主の方に家づくりに対する希望を洗いざらい述べてもらうことから作業を始めます。それをもとに、後藤さんや小林さんを中心にスタッフ全員で案を出し合い、まずは3案ほどに絞ります。 そして、施主の方がその目で見てすぐにわかるように、それぞれの試案を家のミニチュア模型に作り上げていきます。 「施主の方によっては、『この模型のこの部分と、この模型のこの部分を統合させたい』という折衷案のようなご要望が出ることもあります。それが実現可能なのか、ご予算や敷地の条件などと考え合わせながら、我々も施主の方と一緒に悩んでいくわけです。悩むといっても、前向きな悩みですよ。『これもいいけど、これも捨て難い』と、施主の方にも『迷う喜び』があると思います」 |
![]() 最終的に1案に固まると、いくつかが「廃案」となるわけですが、これらも決して無駄にはなりません。 「廃案となった分を含めて、家のミニチュア模型を欲しいとおっしゃる施主の方が多いです。ミニチュア模型を見ながら『あのときは、こんなふうに悩んだんだよなあ』というふうに、家づくりの思い出にひたれますし。子どもの成長を見守るアルバムのようなものではないかと思います」 後藤さんや小林さんにとっても、廃案が廃案で終わるわけではありません。ある施主のケースでは廃案になった提案でも、べつのケースでピッタリ合致することもあるのだそうです。 |
| 後藤さんたちは一般住宅だけでなく、教育施設やレストランなども手がけています。そのすべてに共通するのは、一般住宅でも同様に、施主のご希望を最大限に尊重して提案していく点です。 横浜のプライベートスクール「トトロ幼稚舎」は、子どもたちが自由に登ることのできる梁が目をひきます。 「施主の方が『野外活動を通じてたくましい子どもを育てる』という独特の教育方針をお持ちで、子どもが喜んで遊び回れる建物にしたいというご希望がありました。そこで、梁をジャングルジムのように自由に登れるよう設計しました。壁に空いている穴が入口で、そこから階段を上って梁にたどり着けるようになっています。壁の穴は、大人が通るには少し窮屈なスペースです。子どもってそういう狭い空間が好きですよね」 山中湖にある「オーベルジュ・ル・クロワートル」は、6つの宿部屋を併設するフレンチレストラン。 「コンクリートの打ちっぱなしが好きだというオーナーのご要望に対して、曲線の壁を提案しました。また、窓がほとんどなく、外からは内部がわからないようにしてあります。オーナーの話では、外観を見た人に美術館と間違われたこともあるそうです。窓がなくても採光は問題ありません。内部の中心に中庭を設けているので、日光が十分に入ってきます」 ![]() |
![]() ![]() 「エントランスから中庭に入ると、レストランへ続く通路と、屋外プールへと続く通路があります。外からはもちろん、エントランスからも、内部の全貌が一度には見渡せないように設計されていいます。そのため、ここを訪れたお客様には、内部を歩きながら『この先はどうなっているんだろう?』という楽しみを持っていただけます。このレストランを訪れたお客様のなかには、建物をいたく気に入ってくださって、ここで結婚式をしたいとオーナーに申し出て、実際に式を挙げたという方もいらっしゃいます。ちなみにそのお客様である一組の若いご夫婦は、我々に新居の設計を依頼してくださいました」 ![]() |
![]() 「我々が過去に手がけた建築物を見て建築を依頼してくださることが、何よりも嬉しいですね。施主の方がその建築物を愛してくださっていて、それで友人・知人に披露してくださっているということでもありますし」 「最近終わったばかりの住宅なんですが、家をご覧になった施主の方のお友達が、涙を流して感動してくださったそうです。施主の方のみならず、そのお友達までも感動してくださったということを伝え聞いて、我々もとても嬉しく思いました。まさに建築家冥利に尽きますね」 小学生のころから絵を描くことが好きだったという後藤さん。熱中していると時間の流れが早く感じられるほど楽しいという感覚があった。このころの潜在意識が、建築という現職に結びついている気がすると、自身を振り返る。 「大学は、作ることと学ぶことが一致する学科に入りたかったんです。その答えが建築でした。芸大はともかく一般の大学には、そういう学科はそうそうないと思います」 大学院まで進学した後藤さんは、そのとき先生だった小林さんとパートナーシップを組み、現在に至ります。 |
![]() 「我々のような設計に携わる人間は、自分で釘を打ったり、かんなで削ったりはしません。もしそれができれば、もっと楽しいかもしれないと思うこともあります。でもその反面、多くの人の手を借りて初めてできる家づくりからこそ、施主の方やそのご家族、実際に家を建てる職人さん、そして我々設計者が喜びを共有できるのだとも思います。 紙に設計図を描いて職人さんに渡して終わりというのでは、設計者の思いは決して伝わりません。職人さんたちと一緒にお茶を飲むとか、コミュニケーションを通じて共通の認識を持っていかないと、いい家づくりはできませんね」 施主、設計者、職人…。さまざまな人々とのコミュニケーションを通して、後藤さんたちはまた既成概念を打ち破った家を造っていくことでしょう。 |































